「ソテツの実」という木の実をご存知でしょうか?
一般的には余り知られていない木の実ですが、日本では一部の地域では今でも郷土料理として食べられています。
ソテツの実は様々な健康効果を持っています。ただし猛毒を含んでいるので、食べる際には毒抜きをしなければいけません。
今記事では毒入りなのに食べられる、不思議な植物「ソテツ」とその木の実についてご紹介します。
ソテツとは
ソテツ(蘇鉄)は、ソテツ科ソテツ属の常緑低木です。日本では奄美諸島と九州南部等で自生しています。
ソテツの木と実に関するその他の特徴は、下記の通りです。
ソテツの木の特徴
・裸子植物。樹高は平均3m(成長すると樹高が8m以上にもなる)。海岸近くの岩場に生息する。
・名前は「枯れかかっても鉄釘を打ち込めば蘇る」程に生命力が強い事が由来。窒素分が乏しい土地(痩せた土地)でも生息出来る
・1億年以上前から生息していたといわれており、生きた化石としても知られている
・葉は羽状複葉(主脈の左右に小さな葉が羽状に並んでいる形状)で、幹の最上部分に集中して生えている
・株に雌雄がある(雌雄異株)
・雄株の花は紡錘形で、小胞子葉(花粉や精子を形成する葉)が螺旋状に並んでいる。精子を形成。雌株の花は球体で大胞子葉(胚珠を形成する葉)が多数重なっている
・日本の固有種。本州には自生していないが、安土桃山時代から庭園樹に使われていたと伝えられている
・奄美諸島・八丈島・九州南部・南西諸島と台湾に自生している。観葉植物として人気がある為、栽培品は日本の本土や中米(コスタリカ等)にも出荷・栽培されている
・栽培品は日本の本州でも現在は学校の校庭・公園・街路樹に生えている
・6月~8月に茎の先に花を咲かせる。果実(ソテツの実)は雌株に9月から実り始めるが、12月以降になると容易に収穫出来るようになる
ソテツの実の特徴
・奄美諸島等では「ナリ」とも呼ばれる
・秋頃から冬にかけて雌株に実る。直径4cm程の卵型で、赤またはオレンジ色に熟す
・雌株が卵を抱えているような形で結実している
・実の色は白またはクリーム色。実と種を食用として食べる
・種は硬い。宮崎県ではソテツの種の中に鈴を入れた「南男猿(なんおさる)」という民芸品がある(※南男猿は「難を去る」という意味を掛けた厄除けのお守りです)
・食用にされるようになったのは、奄美諸島で他の作物が不作となり、飢えを凌ぐ為にソテツの実と幹(シンと呼ばれています)を食べた事だと伝えられている
・化学物質「サイカシン」を含んでいる(※サイカシンに強い毒性があります。ソテツの木や葉にも含まれています)
・種と実を毒抜きしてから、デンプン質を抽出した粉を加工して食べる
ソテツの実の効能・効果
ソテツの実は粉にしたり、デンプン質を抽出してから粉に加工して食べられている食品です。
味は殆どしません。無味なので味わうよりも、栄養補給を目的にして食べられます。
ソテツの実は食糧難の時代に良く食べられたものですが、現在では郷土料理の他に民間薬としても用いられています。
ソテツは日本の固有種ですが、中国でも古代からソテツの実や葉が漢方薬として使用されています。
ソテツの実を摂取する事で期待出来る、効能・効果は下記のものがあります。
化膿止め
砕いたソテツの実を傷口に塗ると、化膿や炎症の予防が期待出来ます。
またアトピー等の皮膚病の治療にも、砕いたソテツの実を患部に塗ると良く効くと伝えられています。
咳止め
風邪等をひいた時にソテツの実を煎じた汁を飲むと、咳が止まるといわれています。
健胃・健腸効果
ソテツの実を煎じた汁は、腹痛や胃痛・下痢にも効果があるとされています。二日酔いにも効果があるといわれています。
男性機能の促進
ソテツの実を煎じた汁を男性が飲むと、男性機能が促進されるといわれています。
ソテツの実に含まれる毒について
ソテツの実は漢方薬にも使用されている食品ですが、実は猛毒物質「サイカシン」を含んでいるので、食べる前に必ず毒抜きが必要です。
サイカシンは発がん性物質で、ソテツの実をそのまま食べるとがんになる可能性が非常に高くなります。さらに肝毒性もある為、肝臓の疾患を引き起こす原因にもなります。
またサイカシンは体内でホルムアルデヒドに変化する事で、急性中毒症状(嘔吐・めまい・下痢・呼吸困難)も引き起こします。
ソテツの実の下処理(毒抜き)は、下記の方法に沿って行いましょう。
ソテツの実の下処理(毒抜き)方法
(1)ソテツの実の殻を割り、殻から実を取り出す
(2)実を臼で細かく砕く
(3)水を入れたボウルに砕いたソテツの実を入れて漬け込む。1日に2回水を変えながら、7~10日間冷暗所に置く(※サイカシンを水に溶かし出す作業なので、水の取り扱いに充分注意して下さい)
(4)水から上げたソテツの実をムシロに広げて、3~4日間天日干しにする
(5)ソテツの実を石臼で引いて粉にする
※水の中に沈殿しているデンプン質も、木綿で濾して乾燥させると食べられます。
ソテツの実の食べ方
毒抜きをして粉状にしたソテツの実は、奄美大島等では様々な郷土料理にされて食べられています。
下記はソテツの実を使って作られている、主な郷土料理です。
ソテツ味噌
「ソテツ味噌」は毒抜きしたソテツの実の粉に麹菌を混ぜて天日干しにしてから、煮て潰した大豆やサツマイモにソテツ入りの麹を加えて、2~3か月熟成させて作る「なめ味噌」です。
なめ味噌は、何にも付けずにそのまま食べる味噌の事です。
和歌山県や静岡県で作られている「金山寺味噌」のように、ソテツ味噌をキャベツやキュウリ・豆腐等の上に乗せて食べても美味しいです。
ナリガイ
「ナリガイ」は、ソテツの粉を白粥に混ぜた奄美諸島の伝統食です。
ナリガイは食糧難時代に飢えを凌ぐ為に作られた料理ですが、奄美諸島では現在でも郷土料理の1つとして食べられています。
ナリ団子
ナリ団子は、ソテツの粉に水・砂糖等を加えてから練って蒸した和菓子です。
一般的な蒸し団子のように砂糖醤油やきな粉等をまぶして食べますが、ソテツの実には味が無いので団子の味が淡白です。
ソテツの実は毒抜きに手間が掛かりますが、しっかりと毒を抜き取れば生薬として健康の役に立つ食品です。
ソテツの木は観葉植物として流通している為、比較的手に入れやすいです。サイカシンに充分気を付けて、奄美諸島の人々を飢えから救った植物の実を一度召し上がってみてくださいね!